スカパン〜STORY〜
LES FOURBERIES DE SCAPIN


串田和美:  スカパン=レアンドルの従僕、ペテン師
岡本健一:  シルヴェストル=ひ弱なオクターブの従僕
町田慎吾:  オクターブ=弱虫で単純な資産家の御曹司、アルガントの息子
屋良朝幸:  レアンドル=我侭で子供なお金持ちのお坊ちゃん、ジェロントの息子
永利靖:   アルガント=堅物なオクターブの父親
内田紳一郎: ジェロント=ドケチな大金持ちレアンドルの父親
馬渕英里何: イアサント=オクターブの恋人、母親に死なれ貧しく暮らす娘
市川実和子: ゼルビネット=レアンドルの恋人、ジプシー娘




ペンキの塗り斑のある木の壁に、緑と黄色のドアが二つ
凹凸のないシンプルなセットに、
様々な角度から色んな照明があたる様に出来ている。
余計な装飾がない分、人物から出来る影まで計算されているように見える。
シーン毎に暗転して場面が変わる、
ストーリーの外でも当時の町の風景や
人々の生活などがリアルに織り込まれていて、
映画のフィルムを切り貼りしたような演出。

舞台はイタリアの港町ナポリ。貧富の差が激しい時代。

薄暗い早朝の港の風景、忙しそうに仕事をする者、物売りの女達、
何をするでもなく海を見ている老人、主人に虐げられながら歩く召使。



「なんて知らせだ!僕には約束を交わした人がいるんだぜ!」
従僕シルヴェストル(岡本君)に愚痴をこぼす、
我侭な資産家の御曹司オクターブ(町田君)
仕事で航海していた父親が勝手に結婚話を持って帰ってくると言う。

オクターブ「その女は俺と結婚する為に、
        わざわざタラントから呼ばれて来るんだってな?」

シルヴェストル「そうっす」
「馬鹿!」とシルヴェストルを引っ叩くオクターブ
オクターブ「何とかできないのかよ!」
頭を捻るシルヴェストル
オクターブ「お前ほんっと頭悪いな〜僕がこんなに困っているのに」
オクターブ「もう死んじまいたいよ!」
シルヴェストル「私の方こそ死んでしまいたいですよ、あなたの色恋のお陰で
        私がどんな目に遭うか・・こん棒の嵐ですよ・・」

オクターブ「こんな事になる前になんとか出来なかったのか?」
シルヴェストル「こんな事になる前にもう少し良く考えればよかったんですよ〜」
オクターブ「いまさらそんな事言って僕に辛く当たるなよ!」
シルヴェストル「辛い思いをさせているのはそっちでしょ〜」
オクターブ「誰か上手い事考えてくれるヤツいないかな〜」


路上生活者達の共同の給水所。
体を洗う者、大きなバケツを持って水を汲みに来た子供、
洗濯の順番を待つ男達の列。
子供が待ちきれずに前の大人をバケツで突付いて
叩かれそうになり、バケツを頭に被る。


やっと順番が回ってきて、洗濯を始めるみすぼらしい身形の男。
オクターブの親友レアンドルの従僕スカパン(串田さん)
オクターブ「なあスカパン聞いてくれよ!僕はこの世の中で一番不幸な男だ!」
と勝手に話し始めるオクターブを洗濯しながら適当にあしらうスカパン
スカパン「私はねえ、ある事件から金輪際
       人様の為に人肌ぬがねぇって心に誓ったんですよ」

オクターブ「ある事件?」
シルヴェストル「おまわりに捕まって手錠かけられたんですよ!」
「この世の中恩も義理もわからねぇヤツばっかりだから」
と拒みながらも気になるスカパン

スカパン「で坊ちゃん話ってなんです?」
オクターブ「俺たちの親父達が仕事の為に旅に出たのは2ヶ月前
        俺にはシルヴェストル、レアンドルにはお前に
        身の回りの世話を言いつけた
        その間、レアンドルのヤツ、ジプシー女に惚れ込んじまって
       『綺麗だ〜』とか『頭が良い〜』とか毎日俺に話すんだぜ!
        しまいには『お前には女に惚れた気持ちが判らない』とかって
        俺の事責めるんだぜ!まいっちゃうよ!」

と関係ない事をペラペラ喋る(笑)

スカパン「坊ちゃんこの話はどこ行っちゃうんですかい?」
オクターブ「その日もな、レアンドルに無理矢理お供させられて、
       その女に会いに行く途中
       どこからか悲しげな啜り泣きが聞こえてきたんだ、
       僕はどうしても覗いてみたくなった」
と言って戸を開ける素振り
オクターブ「そこには今にも死にそうな年老いた女が1人横たわっていて
       泣き腫らした目ですがるように看病している1人の娘が居たんだ。
       その娘、身形はとても貧しいんだけど、とっても魅力的なんだ〜
       粗末なスカート、古ぼけた麻の肌着、頭に被った頭巾、
       ああそれなのに、なんて魅力的なんだ〜!!
       他の女があんな格好をしていたら見られたもんじゃない!
       だけど彼女は違うんだ〜スカパン!
       お前もあの場にいたらな〜絶対参ってるぞ〜!!」

とノロケまくる(笑)
「あ〜参ります参ります」と呆れるスカパン

話が長すぎて止めに入ろうとするシルヴェストルが近づくと、
「泣き顔が良いんだ〜!!」と更にヒートアップするオクターブ(笑)
「顔をぐちゃぐちゃにして泣くような醜い泣き方とは違うんだ!
悲しみに沈んでいてもビックリするくらい綺麗なんだ〜」

スカパン「はいはい」
痺れを切らしオクターブの袖を引っ張るシルヴェストル
「もっと要領よく話さないと明日の朝までかかりますよ!
 私が代りに話しますから」


「それからというもの、この人はもうすっかり夢中になっちまって
毎日でもその娘を慰めに行かないと生きてる気もしねぇって
その娘の母親が死んだ後、乳母が母親代わりになったんだけど
乳母が言うには『お嬢様は財産も後ろ楯もないけれど、
れっきとした家柄のお嬢様です
結婚するんでなけりゃ言い寄られるのは迷惑です』とこうきたわけよ!
止められると恋心はますます掻き立てられて、
とうとう3日前に結婚しちまったとこういう訳よ!」

後ろで照れるオクターブ(笑)
「そこに親父さん達が帰ってきて別の結婚話を持ってくる
そうすりゃこの秘密の結婚はバレちまう」

オクターブ「僕だって親がかえの身だろ?
       金がないとやっていけないんだよ」
とニヤっと笑う
「どうだ?なんとかならないか?」
スカパン「なんだそんな、なんでもねぇ事で2人で困ってたんですかぃ?
     そんな事は始めから私に任せときゃよかったんですよ〜」



新婚3日目の熱々カップル
オクターブと恋人イアサント(馬渕さん)
長〜い濃厚なキスシーンから始まる。
後ろでテレまくるスカパンとシルヴェストル(笑)
イアサント「オクターブ?」
夢中になってキスをするオクターブ
イアサント「オクターブ!!」と手で止める
オクターブ?」
イアサント「お父様があなたを別な女の人と
      結婚させようとしてるって本当なの?」

悲しげな目でオクターブ「そうなんだ、イアサント」
「う゛っぅお゛〜〜〜〜〜!!!」
と、もの凄い形相で泣き喚くイアサント(笑)
イアサントの泣き顔が大好きなので嬉しそうに覗き込むオクターブ(笑)
「どうしたの?僕が愛してるのが信じられない?」
イアサント「あなたが私を愛してくれてるのはわかってるわ、でも
      ず〜〜っと愛してくれるの?」
と凄む(笑)
オクターブ「僕が心変わりするわけないじゃないか!」
イアサント「だって男の人の気持ちは熱しやすく覚めやすいって言うじゃない?」
「イアサント!僕を他の男と一緒にしないでくれ!」と両手を広げるオクターブ
「でもあなたはまだお父様と一緒に暮らしている」
オクターブの胸に飛び込みながら突き飛ばすイアサント(笑)
イアサントの腕力に胸を押さえるオクターブ(笑)
壁を引っ掻き暴れまわって泣き喚くイアサントを
怯えながらなだめるオクターブ(笑)
「泣かないでおくれよ、僕は君の涙を見ると、
 どうしようもなく悲しくなるんだ〜」

とイアサントに縋って泣き出すオクターブ(笑)
イアサント「わかったわ、もう泣かないわ」
2人で手を取り合って空を見上げる、
オクターブ「神様は僕達の見方だよ」
イアサント「あなたの心が変わらなければ」

オクターブ「こいつが人肌脱いでさえくれれば僕達のことは上手くいくんだよ」
とイアサントにスカパンを紹介する
スカパン「困りましたね〜私は金輪際人様の為に人肌脱ぐのはやめようと。。」
「この通りだスカパン!頼む!」と頭を下げるオクターブ
スカパン「坊ちゃんそんな〜まいったな〜」と照れながら
「あんたは何にも言わねぇのかい?」とイアサントにも催促(笑)
イアサント「私からもお願いします!私たちの恋の為に!」と頭を下げる。
スカパン「ここまで頭下げられちゃぁ人肌脱がねぇわけにはいきませんね〜」
と嬉しそうに乗る。
喜ぶイアサントがオクターブの頭を捕まえてキスを始める。
後ろからオクターブの頭を叩いて逃げるシルヴェストル(笑)
スカパン「私にまかせといて下さい」
また抱き合ってるオクターブのお尻を思い切り叩いて逃げるシルヴェストル(笑)
わけがわからなくてキョロキョロするオクターブ(笑)


スカパン「お父さんを迎える準備をしましょう」
オクターブ「そりゃダメだ!僕は昔から親父の顔を想像しただけで
       震えが止まらなくなるんだ!」

スカパン「それじゃあお父さんに負けない練習をしましょう」
オクターブ「練習?」
スカパン「そう!私がお父さんをやりますからね〜いいですか?」
「こら!せがれ!」と始めるスカパン
「ゥフフフだってスカパンだもん」と笑って練習にならないオクターブ(笑)
スカパン「真面目にやって下さいよ〜いいですか〜?」
「コラっ!せがれ!お前は親の顔に泥を塗りつけおって!判ってるのか?
 なんとか言え!何も言わんのか?」

縮こまって目を逸らすオクターブ(笑)
スカパン「何か言って下さいよ〜目をそらしちゃダメですよ〜」
一生懸命スカパンを凝視するオクターブ(笑)、が
「こら!」と言われた途端に目をそらす(笑)
スカパン「も〜ちゃんと相手の目を見て!」
言われた通り必死に目を見るオクターブ
スカパンが動いても一点を見たまま微動だにしない
心配してオクターブの目の前に手をかざすスカパン
気を失ったように息もしてないオクターブ(笑)
慌ててスカパン「息して下さい!はい深呼吸して〜」
オクターブの胸を撫ぜたり、両手を持って深呼吸させたり(笑)

スカパン「じゃあ何かお父さんに言いたい事を言って下さい!
     一つくらい何かあるでしょう?」

泣きそうな顔して困るオクターブ、意を決して
「デブ!」(笑)
同時にスカパン「うるさい!お前は言い訳できると思ってんのか〜!」
オクターブのお尻を蹴りながら追いかけ回す(笑)
「痛いよ〜」とお尻を押さえて、逃げ回るオクターブ
真剣に助けに入るシルヴェストルとイアサントに殴られるスカパン
「もう皆さん練習なんですから〜」
頭を押さえて蹲るオクターブのお尻を撫ぜてあげるイアサント(笑)
オクターブ「だってお父さんそっくりなんだもん・・」

スカパン「だからアホみたいに黙ってちゃダメなんですよ
      もうダメですか?」

オクターブ「ダメだ!僕は生まれつき気が弱くてどうしようもないんだ!
      昔から親父の前では弱虫なんだ!」

スカパン「この作戦も無理か〜」
オクターブ「無理だ!他の作戦はないのか?」と途端にお坊ちゃまに戻る(笑)



港に到着するなり「あのろくでなしの馬鹿息子!親の顔に泥を塗りおって!」
練習のお父さんと同じ勢いのオクターブの父アルガント(永利さん)
荷物を運びながらスカパン「もうバレてる!!」
アルガント「あの役立たずのシルヴェストルもタダじゃおかないぞ!」
「やっぱ俺の事忘れる訳ないと思ったよ」と鞄に隠れるシルヴェストル
アルガント「そこにいたのか役立たず!」とすぐに見つかってしまう!
「息子さんは相手の親に刃物を突きつけられて無理矢理結婚させられた」
と、スカパンの機転でこの場はなんとか逃れるシルヴェストル
が、今度は訴訟を起こすとアルガント
訴訟を起こされたら困ると
結婚話の相手、自分の主人のジェロントさんの息子レアンドルの
話を出したり必死に阻止するスカパン、聞く耳を持たないアルガント。
「これから弁護士に相談して、ジェロントさんの所にこの情けない話を伝えてくる」


「お前は大したやつだよ」と梨にかぶり付きながらシルヴェストル
悪巧みを考えるスカパンと二人で海に向かって並んで座る。
作戦は考えてあるとスカパン「1人役を任せられるヤツがいるんだがな〜」
シルヴェストル「あいつ」と客席(海)を指差す(笑)
スカパン「お前何考えてんだよ」
シルヴェストル「じゃ、その後ろ」(笑)
スカパン「そう言う問題じゃねえよ!お前だお前!ちゃんと立ってみろ!」
よろけながら斜めに歩いて壁にブチ当るシルヴェストル(笑)
スカパン「お前は真っ直ぐ歩けないのか?腰に手を当てて
     悪漢の親玉みたいな顔してみろ!」

なんとかやってみるが内股なシルヴェストル(笑)
スカパン「安心しろ!俺がお前の顔も声もわからなくしてやっからよ!」
シルヴェストル「頼むからおまわりにとっ捕まえられる事だけはさせねえでくれよ!」
スカパン「3年やそこらの務所暮らしで気高い心が汚されるかってんだ!」
シルヴェストル「おまわりヤ〜〜ダ〜ァ〜〜」と引きずられて行く(笑)



「しかし子供の教育ってものはですな〜アルガントさん」
オクターブの話を聞いて嫌味を言い出すレアンドルの父親ジェロント(内田さん)
「あなたが息子さんをしっかりおしつけになったら
息子さんも今度のような振る舞いはされなかったんじゃぁないですか」

アルガント「それは結構なお話で、でももし、お宅の息子さんが、
家の息子よりももっと始末の悪い事をしていたとしたら・・」

スカパンの言った事を仄めかすアルガント
ジェロント「なんですって!?」


「やっこさんのとこの息子より、家の息子の方が始末の悪い事をしてるって?
家の息子がそんな事が出来るなんて」
と客席に同意を求めるアルガント(笑)
返事がくるまで聞く(笑)
そこへ「お父様!」と爽やかにレアンドル(屋良君)登場(笑)
「もうお帰りになったんですか?お元気そうで何よりです!」
「良い子」を演じて輝くような笑顔でひしと抱き合う(笑)
ジェロント「何があったんだ??」
レアンドル「何って?」
ジェロント「お前は私の留守の間に何をした??」
レアンドル「何かしろと言ってましたっけお父さん?」
ジェロント「何かしろと言ったんじゃなくてお前は何をしたんだと聞いておるのだ!」
とステッキを振り下ろした勢いで、飛び上がるレアンドル(笑)
レアンドル「何も叱られるような事はしてませんよ」
ジェロント「本当だな?」
レアンドル「本当です・笑」
ジェロント「だがさっきスカパンが。。」
レアンドル「スカパンが?」と顔色が変わる(笑)




豹変したレアンドル
「裏切り者めクソ〜!!俺が打ち明けた話は何があっても黙ってるべきじゃないのか!」
と機関銃を持ってスカパンを待ち構える
そこにオクターブと談笑しながらスカパンが現れると
途端にスカパンに向かって銃を構える
凄い剣幕で銃を打ちまくるが玩具の鉄砲だったと言うオチ(笑)

「待ってろよ!」と部屋から本物のサーベルを持ち出すレアンドル
顔色が変わるスカパンとオクターブ
「お前がした事を全部白状させてやる」とスカパンに
本気で剣で脅すレアンドル
スカパン「わかりましたよ坊ちゃん言いますよ〜」
スペインから届いたワインを飲んだ事や
恋人ゼルビネットへのプレゼントの時計を盗んだ事を
関係ないのに白状してしまうスカパン(笑)
「コイツは厳重処分ものだな〜?」とレアンドルに同意を求められ
愛想笑いをするオクターブ(笑)

「そう言う事じゃねぇ!」と剣を持って暴れまわるレアンドル
スカパンと一緒に逃げまわるオクターブ(笑)
レアンドルが剣を放り投げてスカパンに掴みかかると
慌ててサーベルを鞘にしまって安心するオクターブ(笑)
スカパン「わかりました!白状します!
     半年前突然坊ちゃんを襲ってきた狼男の事覚えてますか?
     坊ちゃん慌てて肥溜めに頭から突っ込んで
     危なく窒息しそうになりましたよね?
     3日たっても4日経っても臭くてね〜笑」

レアンドル「それで!」
スカパン「皆にウ○コ小僧、ウ○コ小僧って言われましたよね〜」
ヒクヒク笑うオクターブ(笑)
切れながらレアンドル「それで!!」
スカパン「あの時の狼男は私だったんですよ」
レアンドル「あれ、お前だったのか〜!!」
後ろで顔を見合わせて笑うスカパンとオクターブ
レアンドル「この事は何度でも後から思い出してやるさ!
     でもな、俺が聞きたいのなそんな事じゃない!
     お前が親父に言った事だよ!」

スカパン「私が旦那さんに?だって帰ってきてから
     まだ旦那さんに会ってませんよ」

「会ってない?」と訳がわからないレアンドル
そこに「レアンドルさ〜ん例の彼女出発まで、
    後2時間しかないって言ってたよ」

自転車に乗ったカルルが伝えに来る。
彼女を救い出す為には大金がいる、何も出来ないレアンドルは
スカパンに頼る他ない。
バツが悪そうに顔を見合わせるレアンドルとオクターブ
猫撫で声で「スカパン力貸してくれよ〜今聞いた事は全部許してやっからよ」
スカパン「許してくれなくていいですよ〜どうぞどてっぱらに風穴開けてください」
レアンドル「そんな事言わないで頼むよ〜」
スカパン「殺してください殺してください」
オクターブ「僕からも頼むよ」
スカパン「そんな事出来るわけないでしょ、
     会った途端に大声で怒鳴りつけられて〜」

オクターブ「いつまでも恨んでちゃいけないよ」
「本気でここん所剣で刺そうとして、ここんとこ〜」
と言いながら泣き真似をするスカパン
レアンドル「全部俺が悪かった謝るよ!土下座してすむならこの通り」と土下座しながら
「頼むよスカパン助けてくれよ〜」と泣き出すレアンドル(笑)
オクターブ「力貸してやれよ〜」
本当に泣いているのか確認しながらスカパン
「わかりましたよ坊ちゃん、もう刃物なんか振りまわさねぇって約束して下さいよ」
レアンドル「じゃぁ僕の頼みを聞いてくれるかい?」
スカパン「どうしようかな〜」と意地悪(笑)
「それじゃもう時間がないんだよ〜」と床に寝転がって
小さい子供のように駄々をコネて泣き喚くレアンドル(笑)
「分かりましたよ」とレアンドルを立たせて袖で涙を拭いてあげるスカパン

「それで、いくらいるんですか?」
レアンドル「500ヘキルだよ」(笑顔)
スカパン「500?500..」(驚)
スカパン「で、坊ちゃんは?」
オクターブ「200ピストール」
スカパン「200??」
オクターブ「うん」←平然(笑)
スカパン「わ、わかりました、
     そのお金はあなた方のお父さんから頂く事にしましょう
     坊ちゃんの方は大体考えてあるんですよ」
とオクターブの肩を抱く
レアンドルを見て「坊ちゃんの方は〜
         あの方はびっくりするくらいのドケチですからね〜」

不安そうなレアンドルに
スカパン「大丈夫なんとかなります!
     坊ちゃん達は向こうで待ってて下さい。
     それからシルヴェストルに作戦開始だって伝えて下さい」




「息子さんの事を考えていたんですか?」
何とかアルガントの訴訟を阻止しようと言いくるめるスカパン
「結婚相手の兄貴ってやつが乱暴もので、
自分が破談にしようと乗り込んで行って
金で解決する事を取り決めてきた」
と話すスカパン
アルガント「いくら要求してきたんだ!」
スカパン「500ピストール以下じゃ話にならない」と吹っかける。
「500ピストールだと!訴訟だ!」と頑ななアルガント

食事を始めるアルガントの周りで、裁判の大変さを懇々と説明するスカパン
結局200ピストールでかたがついたと言うが
断固として首を縦に振らないアルガント


ありとあらゆる台所用品を鎧に見立てて
武装した乱暴者の大きな兄貴に扮したシルヴェストルの所に
アルガントを連れて行くスカパン
シルヴェストル「うぉ〜スカパン!オクターブの父親の
       アルガントってやつはどんなやろうだ!」

スカパン「なんでそんな事聞くんですか?」
シルヴェストル「俺の可愛い妹の結婚を破談にしようとしてやがる
見つけたら、首根っこひっつかまえて、目ん玉くり抜いてやる!!」

怯えるアルガントに「お前はアルガントの仲間か?」
スカパン「この方は違います、この方はアルガントを殺したいほど憎んでる方です」
シルヴェストル「お前さん我慢できないんですかい?ゲス野郎のアルガントに」
アルガント「そうなんです」
シルヴェストル「大馬鹿野郎のアルガントに!」
アルガント「ええ、そうなんです」
シルヴェストル「そいつは嬉しいぜ!ガーオー!!」
アルガントの一緒にステッキを振り上げ「ガーオー!」(笑)
シルヴェストル「まかせておくんなせー!」と言って
「アルガントの助っ人はどこだ〜どこからでもかかって来い!」と暴れまくる
客席まで下りて言ってサーベルを振り回し
斬られたお客さんのリアクションにダメだしをするシルヴェストル(笑)
お客さんの足を斬ったと仕込みの「足」をアルガントに投げて
「俺はつえーぞー」と言いながら会場の後ろから退場(笑)
スカパン「たった200ピストールのお陰で
     親戚やら雇い人が次々殺されるんですから、ま、お大事に」

アルガント「スカパン!200ピストール出す事にするよ!」
スカパン「旦那さんそれがいいですよ!」
アルガント「だが、領収書は貰っておけ」(笑) 


ジェロント邸、目の前にいるジェロントを白々しく探すスカパン
スカパン「旦那さん!息子さんが!!」と泣き真似をする。
ジェロント「せがれがどうした!?」
旦那さんが帰ってきた途端にどやされたってしょげかえってた息子さんを
慰めようと港に散歩に行ったら、トルコの軍艦があって、
気のいいトルコの兄ちゃんに誘われて船に乗り込んでご馳走になっていたら、
そのまま船を沖に出されて、スカパン1人小船に乗せられて
「2時間以内に500ヘキル届けないと息子を売り飛ばす」と言われたと
ジェロントを騙すスカパン

ジェロント「500ヘキルだと〜!!
       500ヘキルがどれだけの大金がわかってるのか!」

スカパン「分かってますよ家一軒帰るくらいのお金だって」
ジェロント「そんな金がそんじょそこらに転がってるわけないだろう」
スカパン「早くしてください!2時間以内ですよ」
胸に下げている鍵を渡すジェロント
「これは箪笥の鍵だ、これで箪笥を開けるがいい
その中に地下室の鍵が入っている、
地下室の奥にビールの空き瓶が沢山並んでるから
それを酒屋に売り飛ばし、息子を自由の身にするのだ!」

呆れたスカパン「そんなの香典返しのビール券にしかなりませんよ」

「ああ可愛そうなレアンドルさん、
もう生きて会えないかもしれない
今頃奴隷にされてムチでビシビシ叩かれてるんだ〜!
でも神様だけは判って下さいますよね?私は出来る事はしました
もし助からないとしたら父親の情が薄いからですよね〜神様!」

と十字を切る
慌てて「判った!今すぐその金を工面しに行くぞ!」
十字を切って神様に愛想笑いをするジェロント(笑)

そこで偶然持っていた金庫の中に、
商売で受け取ったばかりの500ヘキルの金貨がある事を思い出すジェロント
が、未練がましくなかなかスカパンに渡す事が出来ない(笑)
金貨の袋にキスをしたり、高い高いをしてあやしたり
やっと渡すも袋の紐を掴んだまま離さない(笑)
スカパンに八つ当たりしながらも渋々金を渡すジェロント



路上で犬小屋のように粗末な小屋に住んでいるスカパン
そこにお金を貰いにオクターブとレアンドルが尋ねてくる
「スカパ〜ン」と小屋にピーナツをぶつける2人
寝ぼけながらお金を持って出てくるスカパン
「え〜坊ちゃんはこっち」と財布を差し出すスカパンから
さっと取り上げて「ありがとよ!」と嬉しそうに札束を数えるオクターブ
レアンドルに金貨を渡しながら、「一つ頼みがあるんですが」とスカパン
「あなたのお父さんに今までしてくれた御礼を少しだけしたいのですが
 怒らねぇって約束してくれますか?」

レアンドル「いいよ!だから早く!」
スカパン「私達は仲間ですよ!絶対に裏切らねぇで下さいよ」
レアンドル「わかったよ!よし!この金でゼルビネットを自由の身にしてくるぞ!」



中央の照明の下、仮面を被ったスカパンが道化師のように1人で踊る
白い服を着た何者かに、扉の中へ引きずられて行く。



シルヴェストル「オクターブさんとレアンドルさんが、
          2人が一緒にいてくれた方が良いって」

イアサント「そう言う事なら喜んでご一緒させて頂くわ、
私たちもお友達になりましょうね」

差し出された手を取りながら「いいわよ」と大笑いするゼルビネット(市川さん)
ジプシーに育てられた陽気なゼルビネットと
お嬢様育ちで貧乏暮らしのイアサント
恋と身の上話で盛り上がる2人を匿う支度をするスカパンとシルヴェストル
それでも能天気なお嬢さん達に面白い話を聞かせてやれと、
シルヴェストルが、スカパンがジェロントから金を騙しとった話をする
彼女達が奥に落ち着いた後、
「どうしてお前は自分から危ない橋を渡ろうとするんだ」とスカパンを止めようとする
「俺を信じる気があるんならだけどよ」と真面目に話すシルヴェストル
「俺が信じるのは自分だけさ」と聞く耳を持たないスカパン



大人たちの思惑とは裏腹に
何も知らない子供達4人
高らかにテノールが響く中
2組の恋人達が楽しげにダンスを踊る



ジェロント「それで息子は?」
スカパン「息子さんは安全な所に隠れています、今度は旦那さんに危険が迫ってます」
ジェロント「なんでわしが!」
オクターブの結婚相手の兄貴が逆恨みをしてジェロントを殺そうと
狙っていると脅す
ジェロント「なんとかしてくれよスカパン」
スカパン「ここにいい物があります」と荷車と麻袋を指差し
これに旦那さんを入れて屋敷まで運ぶと提案
渋々袋の中に入るジェロント
敵が襲ってきたと芝居を打って、何度も袋の中のジェロントを叩くスカパン
荷車を走らせているうちに、袋を地面に落としてしまう
ジェロントが落ちた事に気付かないスカパンは
荷車がバラバラになるくらいに棒で叩きのめす。
袋から顔を出し、その様子を呆然と見ているジェロント
「裏切り者め、あいつ本気でわしを殺そうとしてたのか・・」


スカパンに殴られて、頭を冷やしながら座っているジェロントの傍の
脚立の上にゼルビネットが座って、何やら大笑いをしている。
ジェロント「なんだってそんなに私の事を馬鹿にするんだ」
ゼルビネット「あなたを馬鹿になんてしてないわよ、面白い事があったの!」
レアンドルがスカパンに頼んでジェロントからお金を巻き上げた事を
全部話してしまうゼルビネット
ついでに本人とは気付かず「ドケチ、ドケチ」とこけ下ろしてしまう。
途中で本人と気付くゼルビネット
ジェロント「その悪党のスカパンは明日までに
ジェロント氏の手で縛り首にされるだろう」


「何してたんですか〜今一緒に居たのは、あなたの恋人のお父さんだって事
 知ってますか?」
と慌ててゼルビネットに駆け寄るシルヴェストル
ゼルビネット「途中で気が付いたんだけどね、私全部喋っちゃった」
「え〜??全部喋っちゃったんですか〜」と倒れるシルヴェストル
ドアの外からアルガントの怒鳴り声、慌ててゼルビネットを奥に隠すシルヴェストル

アルガント「シルヴェストル!お前達とんでもない悪党だな!」
と言いながらシルヴェストルをステッキで叩きのめす
そこにジェロント「アルガントさん、私は酷い目に遭いましたよ」
アルガント「私も酷い目に遭いました」
ジェロント「スカパンのヤツ、私から500ヘキル騙し取りましてね」
アルガント「私もです、スカパンに200ピストール騙し取られました」
目を盗んでやっと逃げ出すシルヴェストル
ジェロント「何?あなたもですか?あの男をこのままにしておく訳にはいけませんね」
アルガント「二度とこんなマネが出来ないようにしてやらなければ」

後ろからそっとカルルが現れる、
始めは拒んでいたが、アルガントが金を見せるともぎ取ってポケットに入れる
ジェロントはカルルの肩を叩いて見送る
ジェロント「悪い事は続くものですな。今日こそは娘に会えると楽しみにしていたのに
      娘がタラントを発ったのは随分前の事だそうで、
      嵐に遭って船諸共沈んでしまったようです」

アルガント「それは大変な事に!」

2人の横を1人の女性が通り過ぎる
ジェロント「メリーヌ!!なんで乳母のお前がこんな所に」
メリーヌ「パンドルフ様!」
ジェロント「その名前は使わないでくれ、
向こうに居た時は仕方なくそう名乗っていたんだ」

メリーヌ「それでございますよ!名前を変えてらしたなんて、
     旦那様を探そうにも、この町は右も左もわからないのですから」

ジェロント「母親と娘は?」
メリーヌ「お嬢様はお元気で、でも一つだけお会いする前にお許し頂かなくては、
     お嬢様はご・・こんされました」

ジェロント「何?」
メリーヌ「ですから、お嬢様はご結婚なされました!」と言って
アルガントの背中に隠れる。
ジェロント「娘が結婚しただと!」
メリーヌ「奥様が亡くなられてからお引止めしようにも旦那様いらっしゃらないし」
ジェロント「相手は誰なんだ」
メリーヌ「オクターブ様と言って、アルガント様と言う資産家のご子息だそうで!」
ジェロント、アルガント「なんとまぁ、不思議な巡り合わせだ」



「大変は事になっちまったよ〜」
とシルヴェストルがスカパンの元へ走ってくる
「何にもしなくても、全ては親父さん達が取り決めた通り事は進んでいたんだよ!
 それより、連中かんかんでお前をとっちめようとしてるぞ!」

スカパン「そんな事はどうでもいい」と話を聞こうとしない

「もうお前なんか〜」と泣きながらスカパンに掴みかかるシルヴェストル
シルヴェストルが去った後、イライラしながら1人歩き回るスカパン
そこにカルルがやってきて、スカパンにタバコを勧める
たわいのないやり取りの後、
タバコに火を付けようと後ろを向いたスカパンの頭を
カルルは大きな金槌で殴る。
倒れるスカパンを見て逃げ出すカルル


再会と結婚に大喜びのアルガント、ジェロント、イアサント
そこへまだ話が分かっていないオクターブが
お父さんに結婚の報告をしようと勇気を振り絞って入ってくる
アルガント「オクターブ!お前の結婚がこんなに喜ばしい事だったとは!」
オクターブ「お父さん僕には約束を交わした人がいるんです!」
アルガント「そうか、だがお前は何もわかってない」
一瞬怯むがイアサントに「頑張る!」とオクターブ
「いいえお父さん僕には全部わかってます!」
アルガント「お前は全然わかってない、ジェロントさんのお嬢さんは」
オクターブ「ジェロントさんのお嬢さんとは結婚できません!」
ジェロント「オクターブ君、家の娘はね」
オクターブ「申し訳ありませんが、お嬢さんとは結婚できません!」
と言ってイアサントの手を取ってお父さんの前に連れて行く、
オクターブ「お父さん!僕はこの人に愛を誓ったんです!
      彼女と別れるくらいなら、死んだほうがましなんです!だから!」

アルガント「だから、その娘と結婚させると言ってるんだ!」
オクターブ「へ?」
アルガント「その娘がジェロントさんの娘さんなんだ!」
訳がわからずキョトンとしているオクターブ
「オクターブく〜ん」と手を振るジェロント氏(笑)
「私の娘はその娘なんだよ」
「え〜〜〜!!!!」とジェロントとイアサントの顔を見比べるオクターブ
アルガント「お前は本当にそそっかしいな〜」とオクターブの頭を撫ぜる
抱き合って喜ぶオクターブとイアサント
イアサント「ねえこの人も一緒にいてもいいでしょ?」
とジェロントにゼルビネットを引き合わせる
ジェロント「まさか息子をこの女と結婚させろってんじゃないだろうな〜
      どこの馬の骨かも分からん女に」

「お父さん!もうその人にそんな事は言わせません」とレアンドルが入ってくる
「金を渡しに行った時、ジプシー連中に聞いたんです!
 この人はこの町の生まれで、その証拠にこの腕輪を貰いました」

腕輪を見たアルガント「この娘は私の娘だ!4歳の時に行方知れずになった私の娘だ!」


お祝いの記念写真。
暗転してシャッターの音と共に、記念写真のポーズの二家族

真っ白いテーブルクロスにお祝いのご馳走とワインが並ぶ
その周りを二家族が仲良く手を繋いで回る
シルヴェストルも他の使用人達も一緒にテーブルにつく

「坊ちゃん達、譲ちゃん達、みんな丸く収まって良かったですね〜!
 旦那さん達、おめでとうございま〜す!!」

と頭に包帯を巻いたスカパンが祝いの花を持って現れる
「歩いてたら空から固いもんが落ちてきて、脳天がぱっくり割れた」
一瞬硬直するオクターブとレアンドル
アルガント「また私達をペテンにかけようってのか?」
場が和む、もう悪巧みは止めろと皆に笑われるスカパン
「旦那さんには随分ひでえ事をしたから、お詫びをしねえ事には
 死んでも死にきれないと思いましてね〜」

アルガント「ああ全部許してやるから安心して息を引き取るがいい」
ジェロント「全部許すから、もう何も言うな、解ったな?」
スカパン「旦那さんを臭え袋んなかに詰め込んで・笑」
ジェロント「何も言うな!」
レアンドル「何?何?」
スカパン「棒で叩いて・笑」
ジェロント「何も言わんでいい!許す!」
スカパン「本当ですか?これで頭の痛みが消えましたよ」
ジェロント「俺はお前が死んでしまうから許すんだ、死なないなら話は別だ!」
スカパン「ああまた頭が痛くなってきましたよ」
アルガント「こんなにめでたい事になったんだ、
何も言わんで許してやらなきゃならんでしょう」

イアサント「お父さん」
レアンドル「お父さん!」
ジェロント「わかった」
スカパン「坊ちゃん達、私が成仏する前に、テーブルに運んじゃくれませんか?」
オクターブとレアンドルがスカパンをテーブルに運ぶ
皆でテーブルに戻って再び乾杯


タバコに火を付けるスカパン
祝宴の時が止まり、カルルに襲われた時の情景が蘇り倒れる。



Fin



作:モリエール
翻訳:内藤俊人
演出・美術:串田和美






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